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東京地方裁判所 平成5年(ワ)21274号 判決

主文

一  被告は、原告に対し、金七八二万八〇〇〇円及び内金七六〇万円に対する平成五年一一月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

理由

一  請求原因一の事実は、当事者間に争いがない。

二  原被告間の仲介契約の成立

1  《証拠略》によれば、以下の事実が認められる(一部は、争いがない。)。

(一)  原告代表者は、平成四年七月六日、株式会社東邦ハウジング(以下「東邦ハウジング」という。)代表者の杉山正臣(以下「杉山」という。)から、中島が日本開発株式会社(以下「日本開発」という。)の仲介により本件土地について等価交換契約をする相手を探しているとの情報を得、本件土地の公図、測量図、登記簿謄本の表題部等の資料の提供を受けた。

(二)  そこで、原告代表者は、同月一六日、かねて知つていた大京流通の小森圭一郎に右資料を送るとともに、同人に等価交換の相手を求めている旨を話したところ、大京流通の塚本義郎常務に会うことになつた。ところが、塚本常務は、大京流通ではマンションを建てて売ることはしないので、被告の東東京支店を紹介するという話になつた。

(三)  大京流通から連絡を受け、資料も受け取つた高橋は、同月二〇日、原告事務所を訪れた。原告代表者は、改めて資料を渡しながら、口頭で、本件土地について中島が等価交換契約を考えているので、被告としてどのくらいでできるか提案してほしいと依頼した。高橋は、本件土地を見に行き、マンション建設用地として適していると判断して、設計業者にプランを立てるように依頼するとともに、原告代表者に、電話で、場所がよいから売主に会わせてほしいと要請した。そこで、原告代表者は、杉山に連絡して、中島に高橋を引き会わせることにした。

(四)  同月二七日、日本開発の末松孝一(以下「末松」という。)、杉山、原告代表者、高橋、五十川らは、バッティングセンターにおもむき、原告代表者が、中島夫妻に対して、高橋及び五十川を紹介した。高橋らは、中島夫妻に対して、持参した略図を提示しながらマンション建設プラン、等価交換率等の説明をし、中島夫妻の側では、本件土地のうち中島ハイツの敷地部分は等価交換の対象とはしない旨の説明をした。

2  右認定の事実によれば、原告と被告との間には、高橋が原告代表者に対して売主に会わせてほしいと要請した時点において、中島と被告との間に本件土地について等価交換契約が成立することを停止条件として被告が原告に報酬を支払う旨の仲介契約(以下「本件仲介契約」という。)が成立したと認めるのが相当である。その年月日は、正確には不明であるが、平成四年七月二〇日から二五日(高橋が作成を依頼してできあがつた計画案であるという乙第二号証の一の日付)までの間で、右計画案の内容に照らすと、二〇日に近い日であつたと認められる。

三  被告と中島との等価交換契約の成立

被告が、本店事業部都市開発課の小池において中島との直接交渉を進め、平成五年七月三〇日、本件土地のうち一七三三平方メートル(五二四・二三坪)について本件等価交換契約を締結し、その持分三二万八二三〇分の二一万一七七六を取得したことは、当事者間に争いがない。

四  被告の仲介契約における条件成就の妨害

1  被告は、原告との間に本件仲介契約を締結しながら、その後に、原告の仲介によつて等価交換契約の締結交渉をする相手である中島と直接交渉をして本件等価交換契約を締結したものである。

被告は、本件仲介契約を締結した担当者高橋の属する東東京支店と、本件等価交換契約を締結した担当者小池の属する本店とは、別個に営業活動を行うものであるから、小池の担当した本件等価交換契約の成立と原告の仲介行為との間には因果関係がないと主張する。しかし、右因果関係が認められないでも、被告が原告を排除して直接中島との間に等価交換契約を成立させたのであれば、民法一三〇条の要件を満たす限り、原告は、本件仲介契約における停止条件が成就したものとみなして、被告に対し、報酬の請求をすることができる(最高裁第一小法廷昭和四五年一〇月二二日判決、民集二四巻一一号一五九九頁)。したがつて、被告が条件成就を妨害したと認められるか否かが問題となる。

2  ところで、被告は、各店舗ごとに別個に営業活動を行つていると主張しており、《証拠略》によつても、東東京支店と本店とは、それぞれ別個に営業活動をしており、中島との本件土地に関する等価交換契約交渉についても、高橋と小池は、当初は互いに知らずに行動していたことが認められる。しかしながら、仮に小池が本件仲介契約の存在を知らずに中島との交渉を進めていたことが事実であるとしても、それで直ちに、被告が本件仲介契約における条件成就を妨げる認識を有しなかつたということにはならない。被告の東東京支店と本店とは、あくまで被告という一個の法人の内部組織にすぎず、各店舗の営業担当者は、いずれも被告の締結する契約における履行補助者たる立場にあるのであるから、本店における履行補助者たる小池が知らないことであつても、東東京支店における履行補助者である高橋が知つていることは、被告において認識していることというべきである。また、逆に、高橋が知らないが、小池が知つていることも、被告において認識していることということになる。

3  被告は、本店の小池がモデルルームを訪れた中島から本件土地の有効活用について相談を受けたのは、平成四年七月二二日であると主張する。証人中島及び同小池の証言中にも、同様の部分があり、小池は同日中島夫妻の案内で本件土地を見に行き、交渉を始めたとされている。

しかしながら、同月二七日に原告代表者、高橋等がバッティングセンターを訪れた際には、中島夫妻は、同じ被告の本店と既に交渉が始まつていることを一言も言わなかつたことは、原告代表者及び証人らの一致して述べるところであり、同月二二日に交渉が始まつていたとすると、極めて不自然である。また、原告代表者、証人末松及び同杉山は、同月二七日に、中島夫妻に対し、被告のモデルルームを訪問することを勧め、同夫妻はまだモデルルームを訪問していない様子であつたと述べている。また、小池が中島と初めて会つたのが同月二二日であつたことを直接示す物的証拠は何もない。これらに照らすと、前記証人中島及び同小池の証言を直ちに信用することはできず、小池の交渉開始が同日であると認めることは困難であり、同月二七日以降であつた蓋然性が高いというべきである。

4  そうすると、小池が交渉を開始した時に、既に原告と被告との間に本件仲介契約が成立していた(前記認定のとおり、その日付は同月二〇日に近接した日であつた。)と認めるのが相当である。これによれば、被告は、先に原告と本件仲介契約を締結し、そのことを認識しつつ、中島との直接交渉を別途始めて、本件等価交換契約を締結したものということになる。そして、被告の本店が交渉の末本件等価交換契約締結に至つたことから、同じ被告の東東京支店が交渉を続けておれば、やはり、同様の内容の等価交換契約を締結するに至つたであろうと推認されるから、被告の右直接交渉によつて原告との間の本件仲介契約の停止条件の成就が妨害されたものであり、高橋がそのことを知つていた以上、被告はそのことについて認識があつたものということになる。

そして、《証拠略》によれば、遅くとも同年八月二七日には、高橋も小池も中島との交渉が競合していたことを知り、被告の本店と東東京支店の部長や支店長の間で以後の交渉をいずれが進めるかの協議がされたこと、その際に、交渉の経過も話し合われた(したがつて、東東京支店には原告の仲介により先に話が持ち込まれたことが互いに認識されるに至つた)こと、にもかかわらず、本店の方が協定の締結交渉の段階にまで進んでいたことから、東東京支店が交渉を打ち切ることに決したことが認められる。この事実によれば、同日以降の交渉は既に本件仲介契約を締結してしまつていた東東京支店において進めることとすることも、十分可能であつたというべきであり、それをしなかつたことをも考慮すると、本店における直接交渉をそのまま進めたことは、信義則に反するというべきである。なお、被告は、高橋が原告代表者に電話で本店が先行しているので東東京支店では扱えない旨を連絡し、原告代表者は、これに異議を述べず、以後、何らの問い合わせもしてこなかつたと主張し、証人高橋はその旨の証言をしているが、原告代表者はこれを否定しており、右証言は直ちに信用し難い。

以上によれば、民法一三〇条により、原告は、被告に対し、本件仲介契約の条件が成就した場合における報酬の支払を求めることができる。

5  なお、仮に、小池が初めて中島と会つて交渉を開始したのが平成四年七月二二日であり、かつ、それが本件仲介契約の締結された日より前であつたとしても、前記認定の事実によれば、原告から被告に中島が本件土地について等価交換契約の相手方を探している旨の情報が個別具体的な方法で提供され、本件仲介契約の申込みがされたのは、遅くとも同月二〇日であり、その後、被告の承諾により本件仲介契約が締結されたのであるから、その中間において中島から直接交渉の申込みがあつても、被告は、信義則上、原告を差し置いて直接交渉を進めて契約を締結すべきではなく、これを進めたときは、やはり条件成就の妨害を構成するといつて差し支えない(このことは、本件において直接交渉の申込みを受けたのが被告の東東京支店であつた場合を考えれば、容易に首肯し得る。店舗の違いは被告の内部組織上の問題にすぎないことは、前述のとおりである。)。

五  報酬額

1  《証拠略》によれば、本件仲介契約においては、報酬の額は具体的には取り決めていないことが認められる。したがつて、原告は、本件における諸般の事情を考慮して相当と認められる額を請求することができることになる。

なお、原告は、宅地建物取引業法四六条及び建設大臣告示第一五五二号に定める最高限度額の報酬を請求するが、右規定は報酬の上限値を規制するものであり、当然に限度額の報酬請求権があるとするものではない。

2  前記認定の事実によれば、原告は、平成四年七月に、被告の担当者高橋らに対し、本件土地の測量図等の資料を提供し、中島を紹介して交渉に入らせたものである。しかし、中島との最初の交渉に際して、中島から、等価交換の対象は本件土地の全部ではなく中島ハイツの敷地を除いた部分であると言われたのであるから、対象地の特定、測量、分筆等を行うなど、等価交換契約の締結にはなお相当の作業が必要になることは十分予想されたにもかかわらず、それ以降、本件等価交換契約の成立までの間に、等価交換契約の成立のために中島及びその仲介人である日本開発ないし東邦ハウジングと具体的折衝をするなどの仲介行為をしたものと認めるに足りる証拠はなく、むしろ、《証拠略》によれば、同月二七日以降の折衝は仲介人らを交えずに被告と中島が直接行うものとの相談をしたというのである。

そして、本件等価交換契約は、売買ではないので、代金額が定められていないところ、《証拠略》によれば、等価交換率を協議するにあたつて、土地の評価額を厳密に算出しなかつたことが認められる。しかし、《証拠略》によれば、平成四年七月二七日の原告代表者、高橋等と中島の折衝に際して、坪単価一五〇万円を基準にして等価交換率を定める交渉をする話が出て、中島も高橋も異論を述べなかつたことが認められ、これに反する証拠はない。そうすると、被告は、坪単価一五〇万円に相当する本件土地の一部である一七三三平方メートル(五二四・二三坪)の三二万八二三〇分の二一万一七七六の持分(約五億〇七三五万円)を本件等価交換契約により取得したと認めるのが相当である。

3  以上の事実を総合考慮すると、原告は、被告の取得した持分の価額の約一・五パーセントに相当する七六〇万円及びこれに対する消費税額相当の二二万八〇〇〇円の合計七八二万八〇〇〇円の報酬請求権を有するものと認めるのが相当である。

なお、本件等価交換契約の成立によつて当然に右報酬請求権が生じて遅滞に陥るものではなく、原告が民法一三〇条によつて条件成就とみなして報酬の請求をした時点で遅滞に陥るものであるから、特段の主張立証がない以上、遅延損害金については、本件訴状送達の日の翌日である平成五年一一月二七日から起算すべきである。

六  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、金七八二万八〇〇〇円と内金七六〇万円に対する平成五年一一月二七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言について同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大橋寛明)

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